オトナは聞く耳持たん
2012年04月27日
「モスキート音」ってありますよね。
17キロヘルツという、非常に高周波数の音で、年齢とともに聞こえなくなって、30代以降は聞こえない人がほとんどになるそうです。
この音を利用した犯罪防止用システムを、イギリスの企業が'05年から販売し始めました。悪いことをしそうな若者を、モスキート音であらかじめ寄せ付けないようにするわけですね。
モスキート音が聞こえない大人の中にだって悪いことをするやつはいるだろう! と思わずツッコミを入れたくなるのですが。
これ、今では日本でも普及しているようで、うちの近所にも取り付けている家があります。
なぜ気づいたかというと、その家の前を歩いているとき、息子(10代)が「ここ、うるさなあ、いつも」と言ったからです。
僕は、「は?」という感じだったのですが、息子が指差す先、家の門の内側にそれらしき機器が置かれていました。
どうやら、人がその前を通ると感知して、モスキート音を鳴らすようになっているようです。
それ以来そこを通るたびに、「うう、モスキート音がうるさい!」と耳をふさいで僕が叫び、「いや、まだ聞こえてないから」と息子が応えるというボケとツッコミを繰り返していたのですが(笑)。
個人的には、この装置って人権侵害じゃないの? と思いますが、それはさておき。
年齢によって聞こえる周波数が違う、特に加齢によって高音が聞こえなくなってくるということは、人によって聞こえている音ってかなり違うんでしょうね。
年齢だけじゃなくて個人差もかなりあると思いますし。
「地獄耳」って言われる人もいるわけで。って、それは話が違うか。
そう考えると、ギターの音も実は人それぞれ違って聞こえているんでしょうね。
オトナにとってバランスのいい音が、若い人からは「高音がキツイなあ」と思われる可能性は大です。
それに、ある周波数帯が聞こえにくければ、それは全体の音色にも影響しますから、ある人にとって良い音がある人には全然良くないとかもあるはずです。
つまり、音の良し悪しは人ぞれぞれの「好み」で語られることが多いのですが、実は年齢や個人差による聞こえ方の違いも大きいのではないかと思います。
そういえば、息子が言っていましたが、iPodで音楽を聴く時間が長かった日には、モスキート音が聞こえにくいんだそうです。
ということは、同じギター&アンプの音でも、耳のコンディションによってその都度けっこう違って聞こえているんでしょうね。
確かに、「今日はこのギターいい音がするなあ」とか、「今日の音は良くないな、アンプが調子悪いかな」なんて思ったりすることは多々あるわけですが、それって耳の問題が大きいのかもしれません。いやもちろん、本当にアンプが調子悪いってこともないことはないんですけど……。
しかし面白いですね、人って絶対、自分が聞いている音が他人にどう聞こえているかって分からないんですから。
突き詰めていくと、僕が見ている「赤色」は他の人にとっても「赤色」に見えているんだろうか? みたいな、哲学とか認知科学的な話にもなっていくんですけど。
僕が聞いているストラトキャスターの音は、隣のAさんにはレス・ポールに聞こえているんじゃないかとか。
Bさんにはバンジョーに聞こえているんじゃないかとか。
Cさんにはウクレレに聞こえているんじゃないかとか。
ただ同じ音を聴いているという幻想を信じ込んでいるだけで。
これって証明も反証もできないですよね。
うーむ、難しい問題だ。
次回は、ストラトキャスターの音のクオリアとは? についても考えてみたいと思います(ウソです)。
難しい話は置いといて、オトナの皆さん、ライブでアンプのセッティングをするときにはトレブルを上げ過ぎないように気をつけましょう。
あなたにとっては良い音でも、それは若者にとってモスキート音かもしれません(笑)。
君の名は
2012年04月19日
ストラトキャスターという名前がどこから来たものなのか、前から気になっていました。
兄貴分であるテレキャスターはもう少し分かりやすいですね。
テレキャスターは、1950年のデビュー当初はブロードキャスターという名前でした。“放送する人”という意味ですね。きっと、“広く音楽を伝えるもの”という意味合いを持たせたかったのだと思います。
ですが、ドラム・シリーズに先にこの名前を使っていたグレッチ社からクレームを付けられたために、テレキャスターと変更することになりました。
“テレ”というのはテレビジョンの“テレ”と同じで、“遠い”という意味の接頭語です。
つまり、ブロードキャスターをうまく言い替えたということでしょうね(“広く”と“遠く”の違いはありますが)。
これには、信号をアンプで増幅させることで遠くにまで音を届けられるエレキ・ギターという楽器の特徴もとてもよく出ています。
それに、テレビというのは新しくてかっこいいものという印象もまだまだあったのでしょう。
で、ストラトキャスターですが、これも“キャスター”とある以上は、何かを伝えるという意味があるのは間違いありません。
"Straro"を辞書で引くとこう出てきます。
連結形で「層雲」「成層圏」などの意
ほほう。分かったような分からないような、ですが。
つまりストラトキャスターとは、成層圏をも飛び越えて何かを伝える、という意味でしょうか。
ということは、宇宙にまで届くということですね。
そうか、さすがはストラトキャスター。
最初から地球など相手にしていなかったのでした。
ストラトキャスターがデビューしたのは'54年。
この時代、アメリカとソ連は宇宙開発競争をしていました。
ソ連が人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功したのが'57年のこと。先を越されたアメリカは巻き返しを図って、その後“アポロ計画”を立ち上げるわけです。
話を戻すと、'54年というのは、宇宙開発、中でも人工衛星打ち上げへの期待がアメリカ国内で高まり始めていた時期なのです。
だからこそ、“成層圏を飛び越える”という発想が生まれたのではないでしょうか。
しかし、テレキャスターがテレビジョンから来たとしたら、ストラトキャスターの名前の基になったストラトビジョンなんてものもあったりして……と思ったら、ありました!(しかも、「Yahoo!知恵袋」で、ストラトキャスターの名前の由来として、これについて書かれている方もいらっしゃいました)
ストラトビジョンとは、「《stratosphere(成層圏)+television(テレビ)から》成層圏中継放送。受信範囲を広げるため、送信設備のある専用航空機を成層圏の一定区域に旋回飛行させ送信する方法」(デジタル大辞泉)なのだそうです。
ウィキペディア英語版には、その専用飛行機の写真も載っています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Stratovision
ここに、'45年に提唱され、'48〜'49年にテストされた等と書かれていますので、時代的にも合っています。
ストラトキャスターのネーミングの元ネタはこれだったんですね。
ストラトキャスターの名付け親は、ドン・ランドールという人物です。
彼はレオ・フェンダーの右腕としてフェンダー社のマーケティング担当を務め、会社を大きく成長させました。
ブロードキャスター、テレキャスターもそうですし、エスクワイア、チャンプ、ベースマンなど、どうやらフェンダー製品はほとんど全てこの人が名前を付けていたようです。
ランドールさんは、その後副社長になりますが、'69年にフェンダーを退社、'70年にアンプ・メーカーを立ち上げました。それが今でもあるランドール・アンプです。
そして、'09年に91歳で亡くなっています。
このランドールさんのおかげで、ストラトキャスターはストラトキャスターになったわけです。
もうちょっとデビューが遅かったらサテライトキャスターとか、ケーブルキャスターになっていたかもしれないですね。
うーん、ストラトキャスターで良かった。
ところで、先ほど"Straro"の説明の中で「層雲」という言葉が出てきました。
これは層になって重なった厚い雲のことですが、ではこれを英語一語で何と言うか調べてみると……
Stratus
なのです。
おお!
ビリー・コブハムのアルバム『スペクトラム』に収録された名曲「ストレイタス」を、トミー・ボーリンがストラトキャスターで弾いたのは必然だったのですね。
そして、それをカバーしたジェフ・ベックがストラトキャスターで弾くことも……。
恥ずかしながら帰って参りました
2012年04月11日
以前このTargieで連載していたギター・コラム『六弦一会(ろくげんいちえ)』が、このたび復活することになりました。
帰って来た六弦一会!
六弦一会の逆襲!
六弦一会リローデッド!
六弦一会ファイナル・エヴォリューション!
等々、巷では大きな話題を呼んでいるようですが(すみません、ウソです)、相も変わらずギターや音楽についてダラダラと、じゃなくて気合を込めて書いていこうかと思います(これもウソっぽいな)。
ちなみに今回のタイトル、「恥ずかしながら帰って参りました」はグアム島から帰還した旧日本兵、横井庄一さんの言葉です(古い……)。
さて、以前連載していたと書きましたが、それってもう5年も前のことなんですね。
この5年の間にはいろんなことがありました。
総理大臣は100人ぐらい代わりましたし、政権交代もしましたし、総選挙といえばAKBの人気投票のことを指すようになりましたし、センターも変わりましたし(というと野球の話だと思う人はオジサンです。あ、僕もか)。
僕自身もどうやら5歳ぐらい年を取った気がしないでもありません。たぶん気のせいだと思いますけど。
まあそれでも、変わらないものもあるわけで、僕の“ギター愛”も変わっていないようです。
以前のアーカイブスも残っていますので、ヒマでヒマでしょうがない時に読んでいただくと時間つぶしにはなるかと思うのですが、そこに「ギターとは自分の体温が最も伝わりやすい楽器だ」と書きました(書いたような気がします。違っていたらすみません)。
その気持ちは今もまったく変わっていません。
下手だろうが、年齢がいくつだろうが、まわりから呆れられようが、いいじゃん。
自分の体温とすぐにひとつになってくれるギターという楽器さえあれば、ちょっとだけ生きやすくなるから。
……そんな思いに共感してくださる方々のために、このコラムをまた書いていきたいと思います。
猫を抱っこするのはどうなんだ、最初から同じ体温だぞ! とツッコミを入れたあなたには、このコラムは向いていないかもしれません(笑)。